それでも、課長が好きなんです!
「彼女は今、自分の子と新しい男の子供と一緒に暮らしている」
「……えっ」
「母親になった彼女が幸せそうに分け隔てなく子供に愛情を注ぐ姿を見て、無責任だと思うが、安心した」
「……会って、お話はしなかったんですか?」
「今は彼女には彼女の幸せがあって、俺は会うべきではないと思った」
「穂積さんは? 穂積さんは今、幸せですか……?」

 穂積さんにだって、幸せを掴む権利はあるはずだ。
 返事を求めて再び彼を見上げ目が合うと、今度は穂積さんが視線を逸らした。

「この前の母親が言っていた縁談がどうとかの話だが」
「お見合い……するってことですか」
「その話はなくなった」
「え」
「アイツが、柏木佑輔が母親のところへ行ったらしい」

 ドクンと一度、胸の鼓動が強く波打つのを感じた。

「佑輔君が……」
「自分は父親の継ぐ気なんてサラサラないし、あんたの息子の成り上がりの邪魔はしない、そう言ったそうだ」
「それって……」
「だから、焦ってわざわざどっかのお偉いさんのお嬢さんと一緒にならなくたっていいだろ、と」

「何のためか分かるか? 俺のためなんかではない。……瀬尾、おまえのためだそうだ」

 きつく唇を噛みしめる。
 今自分が顔を歪めて酷い顔をしていることは分かる。でも、どうしようもない。
 顔を、両手で隠すように覆った。

「……そこまで自分を想ってくれる男がいるのに、それでもおまえはまだ……俺のことが好きだと言えるか?」

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