それでも、課長が好きなんです!
 店先で寺島さんと別れわたしは酔いを覚ますために歩いて自宅へ向かった。酔ってると言っても歩けるくらいに意識もしっかりしている。
 今日は風がなく蒸し暑い。手で顔をあおぎ僅かな風を送りながらゆっくりと歩く。やっぱり、タクシー拾った方がよかったかな……。

 わたしが住むマンションは五階建の社宅の一室だった。
 全室が社宅というわけではないらしいが、何人かは同じ会社の人が住んでいると聞く。すれ違っても違う部署の人だと顔を見ても分からないけど。
 オートロック完備でわたしの部屋は二階の角部屋。
 世間知らずだったわたしの社会に出てはじめての一人暮らしに親はとても心配していたけれどなんとかうまくやっている。一度も危険な目にあったこともないし。
 ここに住んで早三年。入社して三年。時が過ぎるのは早いなぁ。

 自宅の前について玄関前でバッグの中を探って鍵を探す。
 なかなか見つからず、照明が設置してある場所を探し真下に行きバッグの中を覗く。
 キーケースが見当たらない。あれ……朝家出るときはたしかに鍵を閉めて家を出たのに。
 マンションの前で立ちつくし今日一日の行動を思い返す。

「……あっ」

 思い出した。
 今日穂積さんにおつかいを頼まれ外へ出たとき、車の運転が必要だったため免許の入った財布と癖で必要のないキーケースまで会社用の外出用バッグに入れた気がする。そして会社に戻って、財布は自分のバッグに戻したけどキーケースは外出用バッグに入れっぱなしになっている気が……。

 途方に暮れその場に立ちつくす。
 今日一晩……野宿? いや、一晩では済まない。今日は金曜日だし明日から二日休みだ。
 スペアキーは実家の両親に渡してある。
 実家へ電話しようか、それとも会社へ取りに戻るか……
 時計を見ると午後十時をまわっている。まだ会社に残っている人いるかな。会社まではここから歩いて十分ほどだ。わたしは会社に行ってみることにした。

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