Snow Love. ~大好きなキミへ~


「もう、私帰るからね!」

「え、ちょっ、陽乃!?」

「ばいばーい」


真っ赤になった顔をふたりに見られたくなくて、私はバッとスクールバックを乱暴に掴むと、ふたりを横目に教室の扉を開ける。


「陽乃───」


でも。


教室から出ようとした時、ふたりの声と重なるようにして私は誰かとぶつかった。


その衝撃で、手に持っていたスクールバックがドサッと床に滑り落ちる。


「いたた……、ごめんなさい……」


そう謝って自分の鼻を押さえながら顔を上げたその時、私の瞳に映った光景に自分の心臓が大きく鳴った。


………嘘、でしょ?


熱を帯びていた私の頬が、一気に冷めていく。


きっと今の顔は、誰から見てもやばいくらいに真っ青だろう。


「ゆ、うくん……」


その名前を呼んだ瞬間、私の瞳からはとうとうせき止められていた涙がこぼれだした。


「優ちゃん?」


隣に目を向けると、困惑した表情で優くんを見つめている、とてもキレイな人。


長い髪を風になびかせながら耳にかけるその仕草や、大きな瞳を少し伏せた時の長いまつげが、とても大人っぽくて。


“優ちゃん”


そう優くんを呼ぶ声が、とても甘くて。


一瞬で、この人が百合さんだと悟った。


「おい、陽乃!待てよ!」


初めて間近で見た自分の恋敵があまりにも美しくて、大人の女性で。


小さくて子供で、何もできない私なんかとは正反対で。


気付けば私は反射的に落ちていたスクールバックを拾い上げ、その場から逃げるように走り出していた。


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