助手席にピアス
Sweet*1
結婚願望
約束の時間を十分過ぎた時、スマートフォンが音を立てる。
【到着】
画面に表示されたのは、たった二文字のメッセージ。その言葉を今か今かと待ち望んでいた私は勢いよく立ち上がると、パタパタと足音を立てて玄関に向かった。
あっ、その前に最終チェック!
丸みを帯びたボブスタイルOK。クルリとカールしたまつげと艶やかグロスを乗せた唇OK。それから今日のために買った、ピンクのシフォンワンピースもOK、だよね。
口角を上げて、鏡に映った自分の姿に満足をすること数十秒。
あっ、いけない! 早くしなくちゃ!
ハッと我に返ると、慌てながら玄関に向かった。用意しておいたオフホワイトのパンプスに足を忍ばせ、キャリーケースを転がして家を出る。
ひとり暮らしをしているワンルームマンションのエントランスを飛び出すと、道路の片隅に停車している黒い車に駆け寄った。すると運転席のドアが開く。
「亮介(りょうすけ)。お待たせ」
モデルのように長い足を地面に着き、運転席から颯爽と姿を現したのは彼氏の樋口(ひぐち)亮介。
「雛子(ひなこ)。今回の旅行は一泊だってわかっているよね?」
私のキャリーケースを見た途端、亮介の爽やかな笑顔が曇った。