助手席にピアス
「おい。どうしてこうなったのか、理由がわかるか?」
桜田さんのの質問を聞き、自分の作業工程を思い返した。
計量は間違えていないはず。卵は湯せんしながらときほぐしたし、粉も三回ふるった。粉とバターを混ぜる際にも注意を払ったし……。
このように口づけが悪いスポンジが焼けてしまったのか、思いあたる理由はこれしかなかった。
「焼きすぎ?」
「いや、違うな。卵の泡立てすぎだ。粉を落としたことに気を取られ、ミキサーで混ぜすぎたんだ」
「あっ! そうか」
桜田さんの鋭い指摘に納得をする。
朔ちゃんと莉緒さんの結婚式までに、製菓専門学校に通っていた頃のような感覚を取り戻せるのかな……。
繊細なケーキ作りの難しさを改めて実感した私の頭には、不安が大きく広がっていった。けれど……。
「久しぶりにしてはいい仕上がりだ」
桜田さんは、朔ちゃんのように甘くはないし、琥太郎のような親しみやすさはない。でも物事のすべてを丸ごと受け入れてくれる、寛容な心がある人だ。
「桜田さん。私、頑張ります」
「ああ」
この土日はガトー・桜での接客に緊張して、久しぶりのケーキ作りに興奮して、落ち込んだ。
それでも桜田さんがいてくれるなら、朔ちゃんと莉緒さんの結婚式までには、きっと成長しているはず。
こうして、私の忙しかった二日間が終った。