助手席にピアス
美菜ちゃんに向かって自慢げに胸を張る。
「ふーん。ある意味ストイックだね」
美菜ちゃんは会ったことのな桜田さんの様子を、エスパーのようにピタリと言いあてる。
「あっ! その言葉、桜田さんにピッタリ!」
思わず声をあげて笑っていると、美菜ちゃんがまさかのひと言を口にした。
「雛子、もしかして桜田さんのこと、好きになっちゃったんじゃない?」
何故か、胸がドクンと飛び跳ねる。
「そ、そんなことないよ。それに桜田さんには奥さんがいるんだから」
「あら。そうなんだ」
「うん。今は事情があって別居中らしいけど……」
私がつい口を滑らせてしてしまった『別居中』という言葉に、美菜ちゃんは大きな反応を示す。
「別居中って、雛子! チャンスじゃない! 桜田さんを奥さんから奪っちゃいなよ!」
「み、美菜ちゃん、なに言ってんの!? 桜田さんと私はそんなんじゃないから!」
そう、桜田さんと私の関係を言うのなら、師匠と弟子。それ以上でもそれ以下でもない。
「まあまあ。そんなにムキにならないで」
「だって美菜ちゃんが変なこと言うから」
一ケ月半、桜田さんとと一緒に過ごしてわかったことは、彼は口数が少なくて、照れ屋で、優しくて、心が広いということだ。
いったい、桜田さんと奥さんの間になにがあり、別居に至ってしまったのだろうか……。
運ばれてきた、ほうれん草とベーコンのパスタを味わいながら考えるのだった。