助手席にピアス
赤と緑と金に彩られ、あちらこちらからジングルベルのBGMが聞こえてくるクリスマス間近の街並みに心が踊り出す。
けれど今年の私は、彼氏にクリスマスプレゼントを選ぶことも、渡すこともできない。そのことを寂しく感じながら家路を急いでいると、スマートフォンが音を立てた。
「もしもし、琥太郎? 久しぶり」
「おう、今大丈夫か?」
琥太郎の声を聞いただけで、身体が縮こまりそうな寒さも吹き飛ぶような気がするから不思議だ。
「大丈夫だよ。あのね。私、会社が休みの土日と祝日に、桜田さんのお店のお手伝いをさせてもらっているの」
「あ? 手伝い?」
師走でもあるこの時期の人々は、足早に街を行き交う。そんな街中の喧噪を避けるために路地裏に回り込んだ。
「うん。だって製菓学校を卒業してから一度もケーキを作っていないんだよ。だから感覚を取り戻すためにもね」
「なあ、雛。そんなに働いて身体は大丈夫なのかよ」
心配そうに眉根を寄せている琥太郎の顔が、頭に容易く浮かぶ。
「初めのうちは慣れない作業で大変だったけれど、今は事務よりも手伝いの方が楽しいくらい」
「へえ」
「お菓子作りはやっぱり楽しいって思い出せたのは、琥太郎のお蔭だよ。ありがとう」