助手席にピアス
「桜田さん、お店は?」
「クリスマスの翌日は毎年臨時休業にしている。それで頼みというのは一緒に行ってもらいたい場所があるんだ」
桜田さんがどこに行きたいのか、興味が湧く。
「はい。どこですか?」
「ホテル・グランディオだ」
彼がズバリと口にした行き先を聞いた私は、瞬きをするもの忘れるくらい驚いた。
こんなに急に、しかもムードも関係なくホテルに誘われるなんて……。でも身体の関係から始まる恋だってあるし……。
無理やり自分を納得させた私は「い、いいですよ」と強がってみせた。けれど、すぐに自分がとんでもない勘違いしていることに気づく。
「実はな、ホテル・グランディオのパティシエが作ったスイーツを食ってみたいんだ。でもひとりだと恥ずかしいだろ」
「え? ホテル・グランディオの……パティシエ?」
「ああ」
ホテル・グランディオと言えば、‘超“がつくほど一流のホテルだ。そこのパティシエが作ったスイーツは間違いなくおいしいはず。
「最近はスイーツ男子も多いみたいですよ?」
「それは若い男のことだろ? 俺みたいのがひとりでスイーツを食っていたら、気味が悪いに決まっている」
不愛想な桜田さんがありとあらゆるスイーツをテーブルに広げ、ひとりで食べている姿を想像したらとてもおかしくて、プッと吹き出してしまうのだった。