助手席にピアス
「じゃあ、りんごケーキは桜田さんが作らない幻のケーキだね」
「まあ、お前が食いたいのなら、特別に作ってやってもいいが……」
甘いセリフを口にした桜田さんの耳が、赤く染まり出す。
「やっぱり、桜田さんって優しいね」
「お、大人をからかうな。ほら、早く取ってこないとなくなるぞ」
「あっ、本当だ! 急がなくちゃ!」
別にからかうつもりなんかなかったのに……。
必要以上に照れる桜田さんを、かわいらしいと思った。
桜田さんが運転するバンは、渋滞もない夜の道路を快調にひた走る。
あれもこれもと、お腹がはち切れそうになるほどおいしい料理を食べ尽くした私は、助手席で「ふぅ」とお腹を擦る。そんな色気が皆無の私を、桜田さんは横目でチラリと見つめると小さく吹き出した。
「桜田さん。ごちそうさまでした」
「いや、俺の方こそ助かった。ありがとう」
普段、あまり感情を表に現さない桜田さんのレアな笑顔を目にした私の胸が、ドキュンと跳ね上がった。
桜田さんともっと一緒にいたいな……。
フツフツと湧き上がってくる思いは、もう止まらない。桜田さんが運転するバンがマンション前に到着すると、膝の上に乗せたバッグを握りしめながら思い切って口を開いた。
「桜田さん……うちに上がってコーヒーでも飲みませんか?」
「……お前、明日も仕事だろ? 早く休め」