助手席にピアス

サプライズのデートでテンションが上がってしまった私と、感情に流されない冷静な態度を見せる桜田さん。ふたりの温度差を感じてしまった私は、それ以上なにも言うことができずにシートベルトを外した。

その時、桜田さんに腕を強く引っ張られ、唇を塞がれる。ほんのりと甘酸っぱいりんごケーキの味がする桜田さんの舌が絡まり始めると、あっという間に全身の力が抜けていった。

「……んぅ」

堪え切れずに声が漏れてしまうと、熱く重なっていた唇がパッと離れた。

「すまない。お前が煽るようなこと言うから、理性が飛んだ」

「煽る?」

そんなつもり、なかったのに……。

うつむいている桜田さんを見つめる。

「ああ。うちに上がって、と言ったろ? お前の仕事が休みなら……」

「休みなら?」

「朝まで一緒に居られたのに、残念だ」

「……!!」

冷静だと思っていた桜田さんが、実はそんなことを考えていたなんて……。

桜田さんへの思いが、ますます大きく膨らむ。

「さあ、ここで見ているから早くマンションに入れ」

「……はい。桜田さん、今日は本当にありがとう。おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」

名残惜しく助手席から外に出た私は、マンションに向かう。

そして何度も振り返りながら小さく手を振る私の姿を、桜田さんは約束通りずっと見守ってくれたのだった。

< 132 / 249 >

この作品をシェア

pagetop