助手席にピアス
サプライズのデートでテンションが上がってしまった私と、感情に流されない冷静な態度を見せる桜田さん。ふたりの温度差を感じてしまった私は、それ以上なにも言うことができずにシートベルトを外した。
その時、桜田さんに腕を強く引っ張られ、唇を塞がれる。ほんのりと甘酸っぱいりんごケーキの味がする桜田さんの舌が絡まり始めると、あっという間に全身の力が抜けていった。
「……んぅ」
堪え切れずに声が漏れてしまうと、熱く重なっていた唇がパッと離れた。
「すまない。お前が煽るようなこと言うから、理性が飛んだ」
「煽る?」
そんなつもり、なかったのに……。
うつむいている桜田さんを見つめる。
「ああ。うちに上がって、と言ったろ? お前の仕事が休みなら……」
「休みなら?」
「朝まで一緒に居られたのに、残念だ」
「……!!」
冷静だと思っていた桜田さんが、実はそんなことを考えていたなんて……。
桜田さんへの思いが、ますます大きく膨らむ。
「さあ、ここで見ているから早くマンションに入れ」
「……はい。桜田さん、今日は本当にありがとう。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
名残惜しく助手席から外に出た私は、マンションに向かう。
そして何度も振り返りながら小さく手を振る私の姿を、桜田さんは約束通りずっと見守ってくれたのだった。