助手席にピアス
仕事納めを無事に終えると、早々と職場を後にする。そして大きなキャリーケースをゴロゴロと転がしていると、私のもとに駆け寄ってくる桜田さんの姿が見えた。
「ほら。貸せ」
桜田さんは有無も言わさずキャリーケースを奪うと、白いバンに軽々と乗せる。
「ありがとう」
「いや。寒いから早く乗れ」
「はい」
何故、私が職場にキャリーケースを持ち込んだのかというと、仕事終わりのこの足で、実家に帰省するから。
そんな私を心配してくれた桜田さんは、乗り換えの駅まで送ると言ってくれたのだ。
桜田さんの申し出に素直に甘えることにした私は、ほんの束の間のドライブデートを楽しむ。
「桜田さんは年末年始になにをしているの?」
「お年賀として売る焼き菓子の詰め合わせの準備をしないとならない」
クリスマスが終わっても、一息つく間もないほど忙しい桜田さんに対して、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「手伝えなくてごめんなさい」
「いや。お前がそんなこと気にする必要はない。それよりきちんと親孝行してこい」
本当なら桜田さんとふたりきりで、年末年始を過ごしたいと思った。けれど私が帰省することを心待ちにしている、両親とおじいちゃんの期待を裏切ることはできなかった。