助手席にピアス
琥太郎はクリスマスイヴにふたりでケーキを食べると言って、突然、私の前に姿を現わした。でも私とケーキを置き去りにして、琥太郎は彼女のもとへと帰ってしまった。
あの時の私は琥太郎を忘れるために、桜田さんに助けを求めて甘えた。だから正直なところ、琥太郎が置いていったケーキがその後どうなったのかなんて知らない。
桜田さんが一生懸命に作ってくれたケーキが一つ、無駄になってしまったことを申し訳なく思いながら、琥太郎に遠回しな言葉で現状を伝えた。
「琥太郎。私、彼氏ができたから」
「は? 彼氏って……この前フラれたばかりだろ?」
琥太郎は、人懐っこい丸い二重の瞳をさらに大きく見開く。
「人を好きになるのに時間は関係ないよ。それより琥太郎は彼女と素敵なイヴを過ごしたの?」
琥太郎は神社に向かって進めていた足を、突然止める。
「雛……俺、言ったよな? きちんとけじめをつけるって言ったよな?」
突然、私の両肩を掴むと、琥太郎は大きな声を張りあげた。ヒートアップした琥太郎につられるように、私も声をあげる。