助手席にピアス
参拝の列は、少しずつしか前進しない。その間にポケットの中で繋いでいた手が解け、琥太郎の指と私の指が、絡まり始める。
まるで満員電車のように人が溢れる境内で、人知れず指を絡めている行為を不埒に思いながらも、琥太郎の手を振り払うことは何故かできなかった。
ゴツゴツと骨ばった琥太郎の手を感じているうちに、指先が温かくなり、頬が火照り始める。人ごみに押され琥太郎の腕に肩を密着させながら、ふと顔を上げる。すると境内の屋台の明かりに照らされた琥太郎の耳が、真っ赤に染まっていた。
いつもの私なら、照れている琥太郎をからかう。けれど今の私には、そんな余裕など微塵もなかった
神社に来る道中では、声をあげて言い争っていたくせに……。
今はただひたすら黙ったまま指を絡ませ合いながら、参拝の列に並ぶ私と琥太郎はまるで指と指で、さっきのケンカの仲直りをしているみたいだと、密かにそう思った。
ようやく参拝の順番が回ってくると、琥太郎は絡めていた手をスッと離した。その拍子に私もポケットから手を出し、お賽銭を投げ入れると鈴を鳴らす。
二拝二拍手一拝の作法でお願いすることは、ただひとつ。
私を支えてくれている人の健康を願うのみ。
隣の琥太郎はいったいなにを願うのだろうと思いながら、参拝を終えた。