助手席にピアス
慌ただしい午前の業務を終えた私は、美菜ちゃんと共にお気に入りのお店であるイタリアンレストラン・ボーノに急ぐ。
今日のオススメである、あさりのボンゴレビアンコを頬張り、美菜ちゃんと話に花を咲かせていると、テーブルに置いていたスマートフォンが音を立ててメールの着信を知らせた。
手を伸ばしてスマートフォンを手にすると画面に表示された名前に、心が踊り出す。
「あっ、亮介からだ!」
ハニーフーズ株式会社の営業担当である亮介は、毎日忙しくて残業も多い。そのため平日デートができるのは、一ケ月にほんの数回程度たけれど……。
「美菜ちゃん! 亮介、今日早く上がれそうだって!」
突然のうれしい知らせに、テンションが上がる。
「そう、よかったね。それで? デートの誘い?」
「うん。仕事が終わる時間はハッキリわからないけれど、おいしいケーキを買ってウチに来るって」
久しぶりの平日デートだけでもうれしいのに、なんと、ケーキのお土産つき!
亮介が買ってきてくれるのは、真っ赤な苺が乗ったショートケーキ? それともこげ茶色に日に焼けたチョコレートケーキ?
ああっ! どのケーキもおいしそう!
あさりの塩味が特徴であるボンゴレビアンコを味わいながら、甘いケーキを想像する私って、結構器用じゃない?
「ふーん、ケーキねぇ。でも雛子なら、どんなケーキも作れちゃうんでしょ?」
美菜ちゃんがこんなことを言うのには、理由がある。
「う~ん……レシピを見ながらだったら、多分……作れると思う」