助手席にピアス

琥太郎の思いには応えられない。応えられないのなら、琥太郎の思いなど聞かなければいい。

そう判断した私は絡めていた指を解き、琥太郎のポケットから手を出すと、実家に向かって一目散に駆け出した。

でも、徒競走で毎回一位だった琥太郎の足に勝つことはできず、簡単に手首を掴まれてしまう。たった数メートルしか走っていないはずなのに、胸が苦しくて息が上がる。肩を上下に揺らしていると、琥太郎の口から予想通りの言葉が紡がれた。

「雛! 俺、ガキの頃からずっと雛を好きだった。今でも雛だけが好きなんだ」

初めて琥太郎の口から出た『好き』という言葉を耳にした私の鼓動が、有り得ないほど早鐘を打つ。それは決して走ったせいではなく、琥太郎の『好き』という言葉を聞いた私の胸が、キュンと高鳴っていることを自覚した。

もしも、クリスマスイヴの夜に琥太郎のこの思いを聞いたのなら、私は琥太郎の思いを受け入れていた?

自分の気持ちが全くわからなくなった私の脳裏に浮かんだのは、東京にいる桜田さんの顔だった。

「そ、そんなこと言われても困る。だって私、東京に彼氏いるのに……」

「ああ。わかっている。でも俺はきちんとケジメをつけたら雛に思いを伝えるって決めていたから。これでスッキリした。付き合わせて悪かったな」

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