助手席にピアス
私の手首を掴んでいた琥太郎の手が、力なく離れていった。きっと私は、幼なじみの琥太郎のことを深く傷つけた。どうしようもなく胸が痛み出す。
「そんな顔するなよ。これからも俺と雛は幼なじみだ。この関係はずっと変わらねえよ。な?」
返す言葉が見つからない私は、ただ黙ってうつむきながら込み上げてくる涙を懸命に堪えた。
きっと泣きたいのは琥太郎の方だ……。
私が涙を見せるのは間違っていると自分に言い聞かせながら、元日の夜道を実家に向かって黙って歩き続けた。
喪中の実家は、おめでとうと挨拶するわけでもなく、おせちを食べるわけでもなく、年賀状がくるわけでもない。
ただ、こたつに入りながらお餅を食べて、お正月のテレビを見て、のんびりと過ごすという元日を過ごした。
そして迎えた一月二日。
朔ちゃんからお昼ごはんの誘いを受けた私は、実家まで迎えに来てくれた車の後部座席に乗り込む。もちろん助手席に座っているのは、莉緒さんだ。
「朔ちゃん、莉緒さん。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。雛子ちゃん。ちゃんこ鍋のお店に予約入れちゃったけどいいよね?」
「うん。私、ちゃんこ大好き!」
「よかった。じゃあ出発するよ」
後部座席から見える斜め後ろの朔ちゃんの姿は、弟の琥太郎とどことなく似ている。まだ気持ちの整理がついていない私は、琥太郎が一緒じゃなくてよかったと、ホッと胸を撫で下ろした。