助手席にピアス
「へえ。そうなんだ。琥太郎もタイミングが悪かったね。なるほど、それで琥太郎は落ち込んでいるのか。でも雛子ちゃんが気にすることないよ。今までグズグズしていた琥太郎が悪いんだから。ほら、もっと食べて」
私にも、そして莉緒さんにも、朔ちゃんは優しい。それなのに弟の琥太郎に対してだけ容赦ないのは、何故だろう。
朔ちゃんが取り分けてくれた肉団子を味わいながら、この場にいない琥太郎のことをぼんやりと考えた。
朔ちゃんは、ちゃんこ鍋のシメでもある雑炊を、一心不乱に作っている。久しぶりに朔ちゃんと莉緒さんと会ったら、この話をしないわけにはいかない。
「莉緒さん、今度ガトー・桜に来て、私が描いたウエディングケーキのデザイン画を見てね」
「ええ、すごく楽しみだわ」
甘いケーキの話をしているのに、鼻先をくすぐるのは和風ダシのいい香り。ご飯と卵がふんわりと混ざり合うおいしそうな雑炊に、ごくりと喉が鳴った。
あんなにたくさん、ちゃんこを食べたのに、またこれは別腹だよね。
朔ちゃんが取り分けてくれた雑炊に、ふうふうと息を吹きかけてアツアツを口に運ぶ。
「ん~! おいしい! 幸せぇ!」
一度の食事で同じことを何度も言う私を、朔ちゃんと莉緒さんはクスクスと笑った。