助手席にピアス
「雛子ちゃん、真澄は厳しいでしょ?」
「うん。でも自分にも厳しい人だから、注意されても素直に受け入れられる」
「へえ。この様子だと、どんなウエディングケーキができあがるのか楽しみだな」
単純な私は、朔ちゃんの笑顔を見ただけでモチベーションが上がってしまうのだ。
「うん、期待していて! それでね、朔ちゃんは桜田さんと同じ高校だったんでしょ?」
「真澄から聞いたの?」
「うん。ねえ、桜田さんってどんな学生だったの?」
朔ちゃんは、私が知らない昔の桜田さんを知っている。興味をそそられた私は、瞳を輝かせながら朔ちゃんに詰め寄った。
「……真澄は生徒会副会長を務めるほど、頭がよくて活発だったよ」
「え、嘘! 今ではあんなに口数が少ないのに?」
高校時代の桜田さんは、クールでひとりを好む一匹狼タイプ。そう想像していたのに……。
朔ちゃんの予想外の話に驚く。
「嘘じゃないよ。僕は会長を務めていたから、自然と仲良くなってさ。真澄が変わったのはきっとあの出来事のせいだと思う」
「あの出来事?」
穏やかな朔ちゃんの表情が、見る見るうちに曇り出す。
「ごめん。雛子ちゃん。ここまで話しておきながら、これ以上は僕の口からは言えないんだ」
「そ、そうなんだ……」
朔ちゃんの苦しそうな表情を目にした私は、それ以上なにも言えなくて……。
ただ黙って、雑炊を口に運んだ。