助手席にピアス
どことなく自信なさげなのは、製菓学校を卒業してから、すでに一年半が経ってしまっているから。
幼い頃からスイーツを食べることも作ることも好きだった私の夢は、パティシエになること。
その夢を果たすために高校を卒業すると同時に上京をして、東京の製菓専門学校に二年間通った。しかし現実は華やかなスイーツのように甘くなかった。
初めのうちは夢に一歩でも近づこうと、必死になって実習に明け暮れていた。けれど同級生が作り出すセンスあるスイーツを目にするたびに、自信を削がれいく。
そして一日中の立ち仕事に加え、なん十キロもある粉を運んだり、体力的にきつい現実に直面していくうちに、胸に抱いていたパティシエという夢も、桜の花びらがハラハラと舞うように儚く散ってしまったのだった。
上京した時のような熱い情熱を失った私が専門学校を卒業して就職したのが、このハニーフーズ株式会社。
「製菓学校に二年も通ったのに、受注事務なんかしちゃって、もったいないな」
パティシエになる夢をすっぱりとあきらめた私にとって、美菜ちゃんが口にした『もったいない』という理由は正直よくわからない。
「でも、このハニーフーズに入社しなかったら、美菜ちゃんと亮介にも出会えなかったんだよ」
「それもそうだね」
「うん」
クスクスと笑いながらランチを終えると、イタリアンレストラン・ボーノを後にする。
午後の業務が終われば、亮介とのおうちデートが待っている。そう思うと会社に向かう足取りも、自然と軽くなってしまうのだった。