助手席にピアス
時計を見れば、桜田さんから連絡があってから三十分が経っている。
そろそろ到着してもいい頃だよね。
ソワソワとして落ち着かない気持ちになっていると、タイミングよくスマートフォンが鳴った。
「もしもし、桜田さん?」
「ああ。今、下に着いた。降りて来られるか?」
「え? あ、うん」
「じゃあ、待っている」
桜田さんはそれだけ言うと、通話を切ってしまった。
そういえば、桜田さんに号室を教えていなかったっけ……。
一刻でも早く桜田さんに会いたい気持ちを胸に抱えながら、ストールを羽織るとエレベーターに乗り込んだ。そして、一階に降り立つとマンションのエントランスを出る。
そこに停まっているのは、おなじみの白いバン。まだ桜田さんと会ったわけではないのに、すでに高ぶっている気持ちを自覚しながら白いバンに向った。
桜田さんは小走りをする私に気づくと、運転席のウインドウを開ける。
「寒いから乗れ」
促されるまま、助手席に乗り込むと「おかえり」という優しい声をかけてくれる。
「桜田さん。ただいま」
久しぶりの再会は、私の感情を高ぶらせる。運転席と助手席のわずかな距離も、もどかしく感じた。
「桜田さんにお土産を買ってきたの。部屋にあるんだけど……」