助手席にピアス

会って早々に誘い文句を口にするなんて、恥ずかしい。でもこれが私の素直な気持ちだから仕方ないよね。

でも返ってきたのは、残念ながら期待していた言葉ではなかった。

「……悪い。実はまだ、明日の仕込みの途中なんだ」

「それって、もしかして、私に会いたくて仕込みを投げ出して来たってこと?」

「……」

無言のまま、ただひたすらに耳を赤く染める恥ずかしがり屋の桜田さんが、無性に愛しく思えてならなかった。

だから私は会えなかった時間を埋めるように、桜田さんに甘えてみせる。

「桜田さん、私に会えなくて寂しかった?」

「……ああ」

「本当?」

「ああ。本当だ」

「じゃあ、おかえりのキス……してくれる?」

瞳を閉じて、顔を上げる。

キスをおねだりした私の唇に落ちてきたのは、桜田さんの温かい唇。初めは優しくお互いの唇を味わっていたキスも、次第に深く熱く舌を絡ませ合う。

もし、ここが車内でなく、ふたりきりの場所だったなら……。私たちは間違いなく、服を脱がせ合って裸になっていただろう。

情熱的な桜田さんの唇が離れても、しばらくは身体がとろけるような感覚に襲われた。

「きちんと親孝行をしてきたか?」

「うん。……多分」

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