助手席にピアス
いまいち自信のない返事をした私の頭の中で浮かんだのは、帰省した時に起きた二つの出来事。
大人の桜田さんが、ヤキモチを妬くことはないと思うけど……。
琥太郎から告白されたことは、桜田さんには内緒にしよう。そう決めた。
「桜田さん。帰省している時、朔ちゃんと会ったの。それで今度ウエディングケーキのデザイン画を莉緒さんと一緒にお店に見に来るって」
「そうか。わかった」
私が『朔ちゃん』と口にした途端、桜田さんの眉がピクリと上がった。桜田さんのわずかな反応を見逃さなかった私は、朔ちゃんが口にした『あの出来事』が頭に浮かぶ。
桜田さんの過去に、いったいなにがあったんだろう……。
でも、なんと言って『あの出来事』を聞けばいいのか……私にはわからなかった。
年末年始休暇を終えると、去年と同じように平日は会社で業務をこなし、土日祝はガトー・桜で手伝いをしながら、ケーキ作りの練習に励んだ。
そんな一月下旬の日曜日の午後に、朔ちゃんと莉緒さんが仲良く姿を現す。
パイプ椅子を用意し、厨房の作業台の上にコーヒーが入った紙コップを置くと打ち合わせ開始。
「はい、莉緒さん。私が描いたデザイン画の中からイメージに近いケーキを選んでね」
「雛子ちゃん、ありがとう。うわぁ、どれも素敵で迷っちゃう」