助手席にピアス

桜田さんは、すぐに断りの言葉を口にした。

「私も手伝わなくちゃ!」

朔ちゃんから差し出された招待状を受け取らなかった桜田さんの様子を見た私は、浮かれている場合ではないと我に返る。

「式は何時からだ?」

「えっと……」

朔ちゃんから受け取った招待状を開封して時間を確認しようとしている私に代わって、朔ちゃんが答える。

「午後二時からだよ」

時間を聞いた桜田さんは腕組をすると、しばらくの間考え込んだ。

「だったら、朝一番にここでスポンジを焼いてナッペをしろ。そして披露宴が終わったら二次会会場で最後の仕上げをお前に任せる。どうだ? できるか?」

ウエディングケーキ作りだけでなく、移動時間や着替えなどを考えると、決して余裕のある時間配分ではない。

でも、幼なじみで初恋の人である朔ちゃんの結婚式に出席しないなんて考えられないよ……。

「やります!」

ヤル気だけは人一倍溢れている私は、声高々に答えた。でも、朔ちゃんと莉緒さんは不安げな表情を浮かべる。

「雛子ちゃん、無理させて悪いね」

「ううん。大丈夫。朔ちゃんと莉緒さんに満足してもらえるケーキを作るから安心してね」

今の私の心を埋め尽くしているのは、充実感。パティシエになることをあきらめ、亮介にフラれ、なんのために上京したのかわからなくなっていた私を救ってくれたのは、間違いなく琥太郎だ。

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