助手席にピアス

「近すぎて見えなかったり、気がつかなかったりすることが多いって意味」

私の頭に琥太郎の笑顔がまた浮かぶ。そして何故だかわからないけれど、胸がチクリと痛んだ。

自分の胸に燻る正体がわからず、私はモヤモヤした気持ちを抱く。

「朔ちゃんの言っていることって難しすぎて、よくわかんない」

「そう? 雛子ちゃんが自分の心と素直に向き合えば、答えは簡単に出るはずだよ」

朔ちゃんは、まるで私の気持ちがすべてわかっているようなことを言う。

「相変わらず雛子ちゃんは鈍感だね。これじゃあ、琥太郎も大変だ」

「もう! 鈍感って言わないで!」

鈍感って琥太郎にはよく言われるけれど、朔ちゃんにまで鈍感って言われるのは心外だ。思わず頬を膨らませると、朔ちゃんはいつものようにクスッと笑った。

「おっと、ごめん。これから式の打ち合わせがあるんだ。琥太郎のことが気になるなら、メールでもしてみれば。じゃあね」

私のことを鈍感と言ったり、琥太郎の様子を教えてくれなかったり……。

今日の朔ちゃんは、ちょっと意地悪だ。

少しだけおもしろくない感情を胸に抱きつつも、ガトー・桜の前で朔ちゃんと莉緒さんを見送った。

< 156 / 249 >

この作品をシェア

pagetop