助手席にピアス
お店の後片づけを終えると、桜田さんは無言のまま車のキーを手にする。これが私を家まで送ってくれる合図。
明かりを消すと店を出て裏のガレージに向かい、白いバンに乗り込む。
こうして桜田さんに家まで送ってもらうのは、これで何度目かな。
助手席のウインドウの外に流れる景色を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「どうした? 元気ないな」
「そんなことないけど……」
意外と私のことをよく見ている桜田さんに、驚く。
「もしかして朔のことが気になるのか?」
「朔ちゃんのこと?」
「お前の初恋の相手は朔だろ?」
私の初恋の相手が朔ちゃんだということを知っているのは、琥太郎と美菜ちゃんくらい。
桜田さんがどうしてそのことを知っているのか、わからなかった私は驚きのあまり言葉を失った。酸欠を起した魚のように口をパクパクさせていると、桜田さんはクククッと笑い声をあげる。
「図星か」
「もう! 桜田さんまで私を騙したの!?」
「“まで”って、俺の他にも誰かに騙されたのか?」
桜田さんは、私のちょっとした言葉を聞き逃さない。
「お正月に朔ちゃんがね。琥太郎にこくは……あっ」
「ん? なんだ?」
「ううん。なんでもない」