助手席にピアス

お正月にちゃんこ鍋を食べに行った時……単純な私は朔ちゃんにカマをかけられ、琥太郎から告白されたことをポロリと口走ってしまった。

でも、今度はギリギリセーフ的に、口をつぐむことに成功した。……はず。

琥太郎に告白されたことを桜田さんに知られたくないと思ってしまうのは、どうしてだろう……。

自分のことなのに、自分の気持ちがよくわからない。

ため息が口から「はぁ」と漏れた時、桜田さんが運転するバンが私のマンションの前に到着をした。

「送ってくれてありがとう」

「いや」

「じゃあ、おやすみなさい」

シートベルトを外して助手席のドアに手をかけると、思いがけず桜田さんに呼び止められた。

「おい、今日は部屋に招待してくれないのか?」

「え?」

私は今まで桜田さんを二回、部屋に誘ったことがある。でもそのどちらとも断られた。それなのに、今日は桜田さんの方からこんなことを言うなんて……。

目を丸くしながら運転席に視線を向けると、少し厚い桜田さんの唇が大胆な言葉を紡ぎ出す。

「お前を抱きたいと言ったら迷惑か?」

飾り気のないストレートな言葉は恥ずかしすぎて、桜田さんを直視できない。咄嗟にうつむいた私の頭には琥太郎の顔が浮かんだ。

< 158 / 249 >

この作品をシェア

pagetop