助手席にピアス
「雛子が作ってくれたカレー、おいしかったよ。ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
仕事が終わってからウチにくる亮介のために、カレーを作った。味は亮介が言ってくれた通り合格点。
これで亮介の胃袋をつかめたかな?
少しだけあざとい考えだと自覚しながら、ローテーブルの上に置かれたお皿を片づける。
洗い物はあとにすることにして、やっぱりこれだよね……。
冷蔵庫の扉を開くと、約束通り亮介が買ってきてくれたケーキの箱を取り出した。甘いケーキに合わせるのは紅茶。柑橘系のさわやかな香りがする、アールグレイの茶葉をティーポットに入れるとお湯を注ぐ。
お気に入りのいちご柄のカップアンドソーサーをキッチンボードから取り出し、それらをトレーの上に乗せると亮介のもとに向かった。
亮介が選んでくれたのは、テレビや雑誌に何度も紹介されているパティスリー・ミノリのケーキ。箱を開けると二種類のケーキが仲良く並んでいる。
「うわぁ! おいしそう!」
ケーキを倒さないように注意しながら、お皿に取り分ける。
ローテーブルの上に並んだのは、丁寧に重ねられたパイ生地が美しいミルフィーユと、マロングラッセを裏ごしした薄茶色のモンブラン。
「雛子、どっちを食べる?」
「え~と……どっちも食べたいなぁ」
欲張りなことを言う私を見た亮介は、ブラウンの瞳を細めて笑う。
「じゃあ、半分ずつ食べようか?」
「うん!」
アレもコレも食べてみたいと思ってしまう女子の心を、きちんと理解してくれている亮介は、やっぱり素敵だよね。
いわゆるイケメンで優しい亮介の横顔を見つめながら、私たちが付き合うことなったある出来事を思い出した。