助手席にピアス
Sweet*15
明らかになる過去
桜田さんのキスを拒んでしまってから、初めて顔を合わす土曜日。
どんな風に桜田さんと接すればいいんだろう……。
悩みながらガトー・桜に行ってみれば、桜田さんは特に変わった様子を見せずに私と接してくれた。
ホッと安堵しながら一日を終えると、桜田さんはいつものように車のキーを手にする。
桜田さんとふたりきりの車内は、やはり気まずい。奥さんのことと、琥太郎のことを話さなくちゃ、と思えば思うほど緊張してしまい、声が出せなかった。
桜田さんが運転するバンが、マンション前に到着する。
「きちんと戸締りしろよ」
「はい。送ってくれてありがとう」
相変わらず優しい桜田さんに向かって、私はいつもの言葉しか言えなかった。
次の日の日曜日も、何事もなく一日が終わった。無言で車のキーを手にする桜田さんの後を追う。
心の奥底では琥太郎に対する思いを燻らせているくせに、優しい桜田さんに甘えている自分が卑怯で、大嫌い。
涙が零れ落ちないように唇を噛みしめていると、運転席から思いがけない言葉が聞こえてきた。
「なあ、来週の土曜日の午後。俺とデートしてくれないか?」
デートという甘い単語が桜田さんには似合わなくて、込み上げてきた涙も驚きのあまり引っ込んでしまう。