助手席にピアス
「デート?」
「ああ。俺はお前に聞いてもらいたい話がある。それにお前も俺に話したいことがあるだろ?」
「……はい」
私の変化を鋭く見抜いている桜田さんに向かってうなずけば、彼は寂しげな微笑みを浮かべる。
遠出をしたり、おいしいものを食べたりする楽しいデートではないことを承知した上で、私は桜田さんの誘いを受けたのだった。
今、私が思いを寄せているのは、桜田さん以外の人。そのことを彼に打ち明けなければならないと思うと、気が重い。
気分が晴れない一週間を過ごし、あっという間に訪れた約束の土曜日。午前中にケーキが完売すると、桜田さんはCLOSEのプレートを店の扉に掛けた。
ここまではいつもと同じ。けれどデートをする今日は、この先がいつもと違っていた。
桜田さんは後片づけを素早く終えると、厨房の先にあるドアの向かいに姿を消す。三角巾とエプロンを外し、パイプ椅子に座ると、桜田さんが奥から出てくるのをしばらく待った。
カチャリとドアが開く音に顔を上げると、そこにはブラックのテーラードジャケットを着こなした桜田さんの姿があった。
「今日はデートだからな」
桜田さんのセンスある私服姿を目にした私の胸が、不覚にもキュンと音を立てる。