助手席にピアス
次の日の日曜日。いつも通りガトー・桜のケーキが完売すると、桜田さんが珍しい行動を起こした。
「おい。今日は特別授業をするぞ」
「特別授業?」
首を傾げる私を尻目に、ゴソゴソと冷蔵庫からある物を取り出す。
「桜田さん、これってチョコレート?」
「ああ。今日作れば間に合うだろ」
明後日の火曜日は二月十四日。恋する乙女にとって重要なバレンタインデーだ。
でも、私は桜田さんにバレンタインの話をひと言もしていない。
「あの、桜田さん。間に合うってどういう意味?」
「ったく……これだから鈍感だって言われるんだ」
桜田さんは冷蔵庫から取り出したチョコレートの塊を私に差し出すと、大袈裟にため息を吐き出した。
「なんか桜田さん、急に優しくなくなった」
「そうか? そんなことより、どんなチョコレートを作りたいんだ? 天才パティシエの俺様が特別に指導してやる。有り難く思え」
「……」
優しくなくなったどころではなく、急にキャラが豹変した桜田さんを驚きながら見つめる。
「琥太郎くんは甘いものは苦手じゃないよな?」
「あ、はい。って……桜田さん!? こ、琥太郎って……な、なに言っちゃってるの?」