助手席にピアス
今回のミスを、営業の樋口さんに直接謝りたい。
そう思った私は仕事を終えると、地下一階の駐車場に向かった。エレベーター前で彼が戻って来るのを待つこと三十分、唸るようなエンジン音が駐車場に響く。
数歩移動して駐車場を覗き込むと、彼が車庫入れをしている様子が見えた。白い営業車に向かって小走りをする。
「樋口さん!」
突然現れた私の姿を見た彼は、驚きで目を丸くしている。
「青山さん、どうしたの?」
「今回はミスをしてしまって、本当にすみませんでした」
運転席から降りてきた彼の姿は、ワイシャツの袖口を捲り上げ、ネクタイも緩んでいた。
きっと、重い全粒粉を九袋も運んだせいだ……。
チクリと胸が痛み出す。
「どうしたら十を一って間違えられるの?」
「……」
厳しい指摘に返す言葉が見つからない。
「今回はすぐに納品できたからよかったけど、取引先に迷惑がかかるようなミスをされちゃ、困るよ」
彼の言い分は正論で、ただ何度も「すみません」と繰り返すことしかできなかった。
悔しくて、情けなくて、何度も頭を下げ続けているうちに、瞳から涙が溢れ出す。
泣けば済むと思う女と、思われたくない。
しかし、込み上げる涙を堪えることは不可能だった。
泣き顔を見られたくない一心で、彼に背中を向ける。そして瞳から溢れ出した涙をそっと拭った。
すると、肩をちょんちょんと叩かれる。
「ごめん。ちょっと言いすぎた。はい。これあげるから、もう泣かないでくれる?」