助手席にピアス
観覧車の中で向き合って座る朔ちゃんの瞳は、まったく揺るがない。
それは、その言葉に嘘偽りがない証拠。
私は朔ちゃんの真っ直ぐな瞳を、じっと見つめ返した。
「冗談じゃないよ。僕を慕ってくれる幼い雛子ちゃんをかわいいと思っていた。でもさ、僕は琥太郎のお兄ちゃんだろ? 一つしかないものを弟が欲しいと思ったなら、お兄ちゃんである僕は我慢しなければならなかった」
「朔ちゃん……」
朔ちゃんに失恋した中学一年生のあの日……。
こんなに辛くて悲しい思いをするのなら、朔ちゃんを好きにならなければ、よかった、と思った。
でも、今なら胸を張って言える。朔ちゃんを好きになってよかった。初恋の相手が朔ちゃんでよかったって……。
「僕の初恋の人でもある雛子ちゃんと、弟の琥太郎には、絶対に幸せになって欲しいんだ」
朔ちゃんの思いやりに溢れた言葉に、胸がいっぱいになる。
「ありがとう。朔ちゃんも莉緒さんと幸せになってね」
「もちろん」
観覧車から見える晴れ渡る青空を見て思うのは、琥太郎のこと。
ねえ、琥太郎もこの青空を見ている?
富士山だけじゃなくて、この観覧車から遠くにいる琥太郎の姿も見えたらいいのに……。
そんなこと思いながら、あっという間の空中散歩を終えた。