助手席にピアス

五日間の平日の業務を終わらせた私が、実家に着いたのは土曜日の午後。両親とおじいちゃんの出迎えを受けた私は、早速話を切り出した。

「実はこっちに帰ってきたいと思っているの」

そう。私が決断したことは、ハニーフーズの仕事を辞めて地元に戻るということ。でも、そのことを説明する前に、母親が早とちりをする。

「雛子! まさかあなた、赤ちゃんができたの?」

「えっ? 赤ちゃん?」

思ってもみない母親の言葉に、目を丸くする。

「改まって話があるって言うから、もしかしたら結婚の話かと思っていたのに……。もしかしてシングルマザーになるつもり? 相手の人ともう一度きちんと話し合った方がいいわ」

瞳に薄っすらと涙を浮かべながら、そう語る母親の姿に思わず笑いが込み上げる。

「違うからっ! 結婚の予定なんかないし、妊娠もしていないから! もう、お母さんったら!」

母親の勘違いがおかしくてクスクスと笑っていると、父親が渋い表情を浮かべた。

「雛子。こっちに戻って来る理由をきちんと説明しなさい」

怒っているのかと思ってしまうような声を発した父親に向かって、姿勢を正す。

「私、やっぱりスイーツが好きだって気づいたの。だからハニーフーズを辞めて洋菓子店で働こうと思って……。でも東京だと家賃が高いでしょ。だからこっちの洋菓子店で働きながら、この家でお世話になりたいなって……」

< 209 / 249 >

この作品をシェア

pagetop