助手席にピアス

大好きなスイーツに囲まれる仕事は、なにもパティシエに限ったことではない。ガトー・桜の手伝いをしているうちに、接客の楽しさを知った。

でもこの決断を聞いた父親は、考え込むように腕組みをした。

「こっちの洋菓子店で働くと言ったって、そう都合よく募集があるのか?」

「とりあえず履歴書を持って、一軒一軒訪ねるつもり」

ハニーフーズでこのまま働いていれば、東京で自立した生活を送れるくらいのお給料をもらうことができる。それなのに、二十四歳にもなって新しい道を歩き出そうとしている私の決断を、父親は手放しで喜べないのだろう。

でも、先が見えない私に救いの手を差し伸べてくれたのは、おじいちゃんだった。

「雛子ちゃんがこっちに戻って来たいって言うんだ。ワシは大賛成だよ。きっとおばあちゃんも同じ気持ちだよ」

私が上京してパティシエになると言い出した時、一番初めに賛成してくれたのは、おばあちゃんだった。あれから数年が経ち、今度は実家に戻ると言い出した私に、おじいちゃんが一番早く賛成してくれた。

おじいちゃんとおばあちゃんの温かい愛を感じた私は、込み上げてくる涙を我慢すると「ありがとう」と伝えた。すると、父親が大きな咳払いをする。

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