助手席にピアス
「それで、こっちにはいつ戻るつもりだ?」
「お父さん! 戻ってきていいの?」
「ここは雛子の家だ。あたり前だろ」
ぶっきらぼうで少しだけ取っつきにくい、お父さんの愛情を感じながら、お母さんと視線を合わせて微笑み合う。
「ハニーフーズの決算が終わる三月いっぱいまで働くつもり。だから四月にこっちに戻って来たいんだけど……」
お父さんの様子を上目づかいでうかがいつつ、予定を伝える。
「東京まで手伝いに行くから、引っ越しの日が決まったら教えなさい」
「うん。お父さん、ありがとう」
一歩だけ前に進んだ自分の決断に、心が踊る。
「それじゃあ早速だけど、駅前のケーキ屋さんに行ってくる」
「え、今から?」
驚く母親に、バッグの中に忍ばせておいた書類を見せた。
「うん。そのつもりで履歴書も書いてきたし。じゃあ、行ってきます!」
パティシエになるのをあきらめた時は、地元に戻ることなど考えられず、親に相談もしないまま東京で就職することを勝手に決めてしまった。
それなのに、今になって地元で就職活動をすることになるなんて変だよね……。
でもこれは自分が自分らしく、幸せに生きていくための第一歩。
私の決断を知ったら、琥太郎は驚くかな?
琥太郎のこと考えながら、駅前のケーキ屋さんに向かって足を進めた。