助手席にピアス

新しい就職先を見つけるために実家を出た時は、あれだけ張り切っていたくせに……。

今の私は、しょんぼりと肩を落としてトボトボと足を進めている。

アポなしで突然、働かせて欲しいと履歴書を持って行っても「はい。そうですか」と都合のいい返事がもらえるはずもなく……。

駅前のケーキ屋さんのご主人は「今は人手が足りているから」と返事をすると厨房へ引っ込んでしまったのだ。

でも、たったの一軒でめげている場合じゃない!

自分を奮い立たせると、今度は商店街のケーキ屋さんを尋ねた。けれど、そこでも「今、忙しいんだよね」と体よく追い帰されてしまった。

行きあたりばったりではダメだ。

二軒のケーキを尋ねて、そう痛感した私は作戦を練り直すために一時退散することに決めた。

「ただいま」

「雛子、どうだった?」

私を出迎えてくれた母親に向かって、首を左右に振る。

「現実は厳しいね」

「まあ、初めからそんな都合よく決まらないわよ」

「うん、そうだね」

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