助手席にピアス
時刻は午後五時。夕食の準備を手伝うには、まだ早い。私は少しだけ休もうと思い、自分の部屋に向かうために階段を上がった。すると母親に呼び止められる。
「雛子、琥太郎くんに会わないの?」
「え? ああ、別に帰省するたびに会わなくてもいいんじゃない? どうせ朔ちゃんの結婚式で会うし」
琥太郎の名前を聞いただけで、ドキリと胸が飛び跳ねる。
「ふふ、無理しちゃって」
「べ、別に無理なんかしていないから! そうだ。琥太郎には私がこっちに戻ってくることは、まだ内緒にしていてね」
「あら、どうして?」
本音を言えば、今すぐ琥太郎の顔を見たかった。でもこんな中途半端な状態で琥太郎と会ってしまったら、気弱な私はきっと琥太郎に甘えてしまう。
今度こそ、自分の夢を叶えてみせる。そして、胸を張って琥太郎に会うんだ……。
琥太郎の顔を思い浮かべながら、改めて決意を固める。
「働く場所が決まったら自分から琥太郎に言うから」
「はい、はい。わかりました」
私が地元に戻って来るって言ったら、琥太郎は喜んでくれる?
琥太郎の驚く顔を想像しながら、自分の部屋に向かうために階段を駆け上がった。