助手席にピアス

電車とバスを乗り継ぎ、ようやく目的地である森のお菓子屋さんに辿り着く。森林の中に溶け込むように佇むログハウス造りの店舗は、どこか心和む雰囲気が漂っていた。

店内に足を一歩踏み入れると、甘い香りが鼻先をくすぐる。店舗の外見と同様に、木の温もりが感じられる店内には、カントリーケーキだけではなく、クッキーやマドレーヌなどの焼き菓子も並んでいた。

どれもおいしそう。

吸い寄せられるように商品を見つめていると、ハッと我に返る。

いけないっ! 私はお菓子を買いに来たんじゃなくて、面接に来たんだった!

本来の目的を思い出した私は、ごった返す店内を進むと店員さんに声をかけて事情を説明した。



事務所に案内された私が緊張しながら面接の時を待っているとカチャリとドアが開き、赤いエプロンを身に着けたふくよかな女性が姿を現した。

この人がオーナー?

一見するとオーナーというより、近所の優しいおばさんと言った方がしっくりするような気がする。

「青山雛子です。よろしくお願いします」

イスから立ち上がり挨拶をする。

「初めまして。森のお菓子屋さんのオーナーの山崎です。オーナーがおばさんで驚いたでしょ?」

「いいえ、そんなことありません」

< 215 / 249 >

この作品をシェア

pagetop