助手席にピアス

即座に否定したものの、もしかして驚いたことが表情に現れていたのかと内心焦る。

「まあ、座ってちょうだい」

フッと笑みを漏らすオーナーの態度に、幾分緊張が解け始める。けれど私が差し出した履歴書を見ると、表情が一転した。

「事務職に就いているあなたが、どうしてこの店の求人に応募して来たのか教えてくれる?」

「はい。私は……」

幼い頃からの夢であったパティシエになるために上京して製菓学校に入学したことを、けれど厳しい現実を目のあたりにして夢をあきらめ、ハニーフーズに就職した過去を語る。

そして幼なじみのウエディングケーキを作るために、知り合いの店で手伝いをしているうちに、もう一度スイーツに関わる仕事をしたいと思うようになったことを一気に話した。

するとオーナーはうなずきながら、こんな質問を投げかけてきた。

「もしあなたがこの店のパティシエだったら、どんなケーキを作ろうと思う?」

私の頭にすぐに浮かんだのは、数週間後に控えた朔ちゃんと莉緒さんのウエディングケーキ。でも、生クリームをデコレーションしたベリー系の派手なケーキは、この素朴なログハウス造りの森のお菓子屋さんにはそぐわない気がする。

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