助手席にピアス
「うん、そうする! 私、琥太郎くんに会ってみたかったんだよね。ねえ、雛子。地元に戻るって言ったら琥太郎くん、喜んだでしょ?」
にこやかな笑顔を浮かべる美菜ちゃんとは対照的に、私は静かに事実を話す。
「……美菜ちゃん。このことは琥太郎に一切話してないの」
美菜ちゃんは驚きのあまり、口に含んだカクテルを吹き出しそうになる。
「雛子!? どうしてそんな大切なことを琥太郎くんに相談しないの?」
美菜ちゃんがそう思うのは、もっともだと思う。でも……。
「琥太郎には全部決まったら、直接会って話すつもり。自分の気持ちもちゃんと……」
美菜ちゃんは私の言葉に大きくうなずくと、優しく頭を撫でてくれた。
「そっか。雛子がそう決めたのなら私はもうなにも言わない。でも雛子、やっぱり寂しいよぉ~」
「美菜ちゃん、私も寂しい……」
女がふたり、ダイニングバーで抱き合いながら涙を流す図は、ちょっとイタイ気がする。けれど冷たい他人の視線など気にしない。
今日は木曜日。明日も普通に仕事がある。それなのに徹底的に飲み明かした結果……。
次の日には、ズキンズキンと痛む頭を抱えながら、業務をこなすという羽目になったのだった。