助手席にピアス
心も身体も満足しきった私は、亮介の腕枕で眠りに就いた。けれど、けたたましく音を立てるスマートフォンによって、夢の世界から無理やり起こされてしまった。
時刻は午前四時、着信相手は母親だった。
こんな朝早くに連絡をしてくる理由に心あたりがあった私は、隣で眠っている亮介を起こさないように、そっとベッドを抜け出す。そして震える指でスマートフォンの画面に触れた。
「もしもし、雛子?」
「うん。お母さん。もしかして、おばあちゃんが?」
「ええ。さっき亡くなったわ」
やっぱり……。
去年から祖母の具合がよくないことは、母親から聞いていた。でもいざ、その時を迎えると、どうしようもない悲しみに襲われる。
「お、お葬式はいつ?」
「明日がお通夜よ」
「そう。わかった。なるべく早く帰るようにするから。じゃあね」
会話を終わらせた私が振り返ると、そこにはベッドの上に腰かけている亮介の姿があった。
亮介を起こさないように気を使い、小声で話してみても、この狭いワンルームでの会話は筒抜けだ。
「ごめんね。起こしちゃった?」
「いや。それより雛子……お葬式って誰か亡くなったのか?」
「おばあちゃんがね……だから会社休んで実家に帰らなくちゃ」
「そうか。大変だな」
「……う、ん」
ベッドに座っている亮介の隣に座り、甘えるように身体を寄せると、無言のまま私をギュッと抱き寄せてくれた。
甘く情熱的だった昨夜が嘘のような、しんみりとした朝を迎えた私に気を遣ってくれる、亮介の優しさが胸に沁み入った。