助手席にピアス
いよいよ来週の土曜日は、朔ちゃんと莉緒さんの結婚式。だからガトー・桜でのお手伝いは実質、今日の日曜日で終了となる。
いつものように、車のキーを手にした桜田さんの後について行き、裏のガレージのバンの助手席に乗り込む。これが桜田さんとの最後のドライブだと思うと、途端に寂しい気持ちが込み上げてきた。
「桜田さん、今までありがとうございました」
「ん? 改まってどうした?」
桜田さんは、切れ長の瞳を丸くする。
「だって、来週はバタバタしそうだから、今のうちに挨拶をしておこうと思って」
「そうか。まあ俺もなんだかんだで楽しかった。今までありがとう」
桜田さんが唐突にお礼の言葉を言うから……私の瞳からは、堪え切れず涙が零れ落ちてしまった。
「泣き虫」
「だって……」
助手席で零れ落ちた涙をそっと拭っていると、桜田さんはクククッと笑う。
「これじゃあ、来週の朔の結婚式でも感動して泣くんだろな」
「……」
なにも言い返せない私に向かって、桜田さんははまたクックッと笑った。
「来週は琥太郎くんに慰めてもらえ」
「……はい。そうします」
「ああ」
桜田さんと出会わなければ、私はもう一度スイーツに関わる仕事に就こうとは思わなかった。
時に厳しく、時に優しく、私を指導してくれた桜田さんの横顔を見つめながら、心の中でもう一度、ありがとうと呟いた。