助手席にピアス
Sweet*3
幼なじみ
出社する亮介をマンションの下まで送ると、実家に帰る準備を始める。
クローゼットの奥からキャリーケースを出し、数日分の着替えを詰め込む。するとスマートフォンが音を立てた。
「もしもし、雛か?」
私のことを『雛』と呼ぶ人は、この世でただひとりだけ。
「そうだけど……琥太郎(こたろう)、朝からなんの用?」
「なんの用ってことねえだろ? 俺は雛のことを心配してだな……ったく……相変わらずかわいげのねえヤツ」
いきなり耳に飛び込んできた懐かしい声に、ついケンカ口調になってしまうのは昔の癖だろうか。
「別に琥太郎に、かわいいと思ってもらわなくたっていいもん」
私と同じ歳で幼なじみの辻(つじ)琥太郎が、急に連絡をしてきた理由は、あのことしかない。
「雛? オマエ、大丈夫か?」
私が上京をしてからは、お盆とお正月に帰省した時にしか会わなくなっても、必要な時にしか、連絡を取り合わなくなっても……。
今、私がどんな思いでいるのかを鋭く見破る琥太郎に、思わず弱音が零れてしまう。
「琥太郎……おばあちゃんが……。大好きだったおばあちゃんが死んじゃった……」
「ああ、俺も雛のバアちゃんが大好きだったよ」