助手席にピアス
Sweet*19

助手席にピアス


ハート型のウエディングケーキは切り分けるそばから、まさに飛ぶようにという表現通り、あっという間に捌(は)けてしまった。

みんな喜んでくれて、よかったな……。

自分が作ったケーキを食べている人たちの笑顔を見ながら充実感を抱いていると、空のプレートを手にした琥太郎が私のもとに向かってきた。

「雛、うまかった。ごちそうさま」

「本当? よかった」

琥太郎の褒め言葉は、単純明快。でも、それがなによりもうれしい。自然に頬が緩んでいくのを実感していると、琥太郎は辺りをキョロキョロと見回し始めた。

「琥太郎、どうしたの?」

琥太郎はソワソワと落ち着きのない態度を見せながら、私の耳もとに口を寄せる。

「雛、抜け出そうぜ」

「えっ?」

驚いたのは、ほんの一瞬。琥太郎は会場の隅に置いていた荷物を素早く手にする。そして私の手首を強引に掴むと、二次会会場を横切りドアを開けた。

「琥太郎! まだ二次会が終わっていないのにっ!」

「兄貴の鼻の下が伸び切った顔なんか、もう見飽きた。俺は早く雛とふたりきりになりたいんだよ!」

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