助手席にピアス
琥太郎は、私の手を引きながらエレベーターのボタンを押した。その耳がりんごのように真っ赤に染まっている。
琥太郎が照れながら、そんなことを言う理由はただ一つしか考えられない。
「琥太郎って、私のこと……まだ好きでいてくれているの?」
「……」
私の言葉と、エレベーターが到着した「ポン」という音がシンクロした。でも琥太郎にはどちらも聞こえたはずだ。それなのに私の質問には、一切答えてくれなかった。
琥太郎は無言のままエレベーターに乗り込み、荷物を手荒く床に置くと一階のボタンを押す。
「琥太郎?」
切羽詰まったような表情を浮かべる琥太郎の顔を覗き込む。すると琥太郎は片手だけではなく私の両手首を掴むと、その手に力を込めた。バランスを崩しながら後退した私の背中が、エレベーターの壁に突きあたる。
いったい、なにが起きたの?
自分の状況がしばらく理解できないでいると、私の瞳を覗き込むようにして琥太郎の顔が徐々に近づいてくるのが見えた。
私と琥太郎の唇の距離は、わずか数センチ。
これって、まさか……。
ドキドキと高鳴る鼓動を自覚しながら、これから起こるであろう出来事を頭に思い浮かべる。