助手席にピアス
母親の電話でも、亮介の胸の中でも、涙なんか込み上げてこなかったくせに……。
数か月振りに琥太郎の声を聞いただけで、おばあちゃんとの思い出が次から次へとよみがえってきてしまった。堰を切ったように溢れ出る涙を、止めることができない。
「琥太郎ぉ……」
「雛、思い切り泣いていいぞ。俺が見守っているから……」
声を上げ、何度も息を吸い上げて激しく泣きじゃくる私の耳に届くのは、琥太郎の息づかいだけ。
それなのに、背中を琥太郎に優しく擦られているような錯覚に陥るのは何故だろう……。
そう思いながら、とめどなく涙を流した。
「琥太郎。ありがとう。もう大丈夫」
琥太郎の言う通り、泣くだけ泣くと、ようやく気持ちが落ち着いた。
「そっか……でさ、こっちに帰ってくるんだろ?」
「うん。今、その準備をしていたところ」
私の実家は東京から電車で三時間ほどかかる距離にある。
「だと思ってさ。車持っている兄貴に雛を拾ってもらうように話しておいたから」
「えっ? 朔(さく)ちゃんに?」
「そ。俺っていい仕事するだろ?」
確かに。グッジョブ!です。
大きな荷物を抱え、何度も電車を乗り継いで実家に帰るのは、意外と大変なのだ。
ちなみに朔ちゃんとは、琥太郎の五つ歳上のお兄さんのこと。フルネームは辻 朔太郎(つじ さくたろう)で、高校を卒業すると同時に上京している。