助手席にピアス

電車を降りた私と琥太郎は、初詣の時と同様に自然に手を繋ぎ、指を絡め合った。

「雛。毎日あんな激混みの電車で会社に通っているのかよ?」

「平日の朝のラッシュはあんなもんじゃないよ」

「マジで? 俺、東京で働くの無理だわ」

どうでもいい話を交わしながら私のマンションに向かう琥太郎の指から伝わってくるのは、温かい体温。だから私も好きだという思いを乗せて、琥太郎の横顔を熱く見つめた。

いつもならひとりで歩くこの道も、琥太郎と一緒だとあっという間にマンションの前に到着してしまう。そして上京する時にこのマンションの住所を教えたけれど、琥太郎を招待するのは初めてだと気づいた私は、緊張しながらドアの鍵を開けた。

「どうぞ」

「あ、ああ。お邪魔します」

実家の私の部屋で、何度も琥太郎とふたりきりになった。けれど、それは下の階にいつも家族の誰かがいた。

でも今は東京のこの部屋にいるのは正真正銘、私と琥太郎のふたりきり。

狭いワンルームの部屋を物珍しそうに見回している琥太郎に対して、私の心臓がドキドキと高鳴った。

「琥太郎、なにか飲む?」

「いや、なにもいらね。それより雛、昼間言っていた頼み事ってなんだよ?」

本当だったらコーヒーでも飲んで、この胸の高鳴りを鎮めたかったのに……。

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