助手席にピアス

「雛、彼氏に頼まなくていいのかよ?」

あ、そういえば琥太郎は、まだ私に彼氏がいると思いっている。その誤解を早く解きたかったけれど、今はこの胸に燻っている不安を払拭したい気持ちの方が勝った。

「いいの。お願い」

「わかった。じゃあ、ヤるぞ」

琥太郎はゴクリと喉を鳴らすと、緊張した面持ちで私に向かって顔を近づけてきた。そして、私の髪を掬い上げると、その細く長い指で耳たぶを掴む。

琥太郎とは手を繋いだり、一緒にお風呂に入ったり、ひとつの布団で眠ったりした仲だけれど……。

耳たぶに触れられるのは初めてで、恥ずかしさを隠すために慌てて瞳を閉じた。その瞬間、バチンという乾いた音が響く。

「おい、雛? 痛くないか?」

「う、うん。平気」

「じゃあ。反対の耳も開けるぞ」

「うん」

私のお願いを断れない、幼なじみの優しい琥太郎に頼んで無事、初体験を終えた私は急いで鏡をのぞき込む。

そこに映ったのは、クリスタルのファーストピアスが眩しく光を放っている私の両耳。そのかわいさに満足をしながら鏡を覗き込んでいると、鏡の中の琥太郎が私の瞳を真っ直ぐに見つめていた。

「で? なんでピアス?」

そう。朔ちゃんと莉緒さんの結婚式に着て行くベビーピンクのドレスを買った帰り道で、私が買ったのはピアッサー。

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