助手席にピアス
朔ちゃんが運転する車内には、ドラムとトランペットが印象的な心地よいジャズの音楽がが流れている。
大人の雰囲気を醸し出す朔ちゃんに、胸が高鳴ったのも束の間……。
朔ちゃんの言葉が、私を現実に引き戻す。
「雛子ちゃん。実は休みが取れたのは明日だけなんだ。通夜が終わったら僕はそのまま東京に帰らなくちゃならない。告別式に参列できなくて悪いね」
「朔ちゃん、謝らないで。忙しいのにありがとう」
そう。これは朔ちゃんとのデートではない。
大好きだったおばあちゃんのお葬式に参列するために、帰省しているのだと我に返る。
幼かったある日------。
琥太郎のウチにお泊りをすることになった私は、リュックに着替えを詰め込むと元気よく家を出た。
琥太郎のお母さんが作ってくれたおいしいハンバーグを食べて、琥太郎と一緒にお風呂に入り、ひとつの布団に並んで寝転ぶ。
いつもと違う日常に、幼い私は興奮気味。琥太郎のお母さんが「明かりを消すわよ」と言って部屋が真っ暗になっても目が冴えて、いつまで経っても眠ることができない。
隣の琥太郎を見れば、すでに寝息を立てて夢の中。琥太郎のウチにはしょっちゅう遊びに来ていたはずなのに、暗がりが広がる部屋に不安だけが募り始めた。