助手席にピアス
運転席から出てきた朔ちゃんにお礼を言うと、慌ただしく実家の門をくぐる。玄関ドアを勢いよく開けると、足の踏み場もないほど靴が溢れ返っていた。
そしてまだ、家にも上がっていないのに「雛子ちゃんが帰って来たぞ」と、誰かが口走る。
「おお、雛子ちゃん、お帰り」
「まあ、雛子ちゃん。すっかりお姉さんになって」などなど……。
懐かしい親戚のオジサン、オバサン。そして近所の人たちに次々に迎えられ、家に上がり込み奥へ進む。
そして、ようやく両親とおじいちゃんと再会を果たした。
けれど……。
座敷で布団に横たわり、顔に白い布を掛けられているおばあちゃんの姿を目にした瞬間、深い悲しみに襲われた。
「おばあちゃん、ただいま。雛子だよ」
その白い布に手を伸ばし、そっと顔を覗き込む。その安らかなおばあちゃんの表情は、眠っているようにしか見えなかった。
でも、おばあちゃんの頬も、しわしわの手も、ひんやりと冷たくて、もう永遠に起きることはないのだと実感させられた。
「おばあちゃん……」
声をかけても返事がないことを知りながら、それでも「おばあちゃん」と呼び続けて涙を流した。
お通夜と告別式は、葬儀場で営まれた。
私を実家まで送ってくれた朔ちゃんは、お通夜が終わるとそのまま東京に帰ったと琥太郎から聞いた。
慌ただしく過ぎたお通夜と告別式を終え、土曜日の今日はゆっくりと実家で過ごし、日曜日の明日に東京に帰ることにした。